娘達が帰っていった。

今度は正月まで会えないだろう。

昨日は夫が一日はハイで、一人で壁を相手に喋りまくっている。
娘も「凄いね。いつもあんなふう？」

夫が認知症っぽくなって驚いたようだ。

会話もちぐはぐで続かない。
この先、どんな風になっていくのだろう。

娘一家が久しぶりに泊まりに来た。

１歳３ヶ月の孫娘にはきっと忘れられて、泣かれるだろうと思っていたら
顔を見たとたん、にこっと笑ってくれた。

覚えていてくれたのだ。

嬉しくて思わず抱きしめてしまう。

診察に行く。

今日は検査も無いので、予約時間に間に合うようにケアマネに介護タクシーを
頼んでもらっておいた。

受付を済ますと処置室に行くように案内された。
リクライニングの車椅子なので場所を取る。

直ぐに先生がきて話を聞いてくれ、私も入院は断った。
夫を診察した先生は「元気ですね～。言葉もはっきりしているし、耳も聞こえて
いるし」

薬を興奮を抑えるような物に変えてもらう。
前に貰った睡眠導入剤は、人によっては興奮するのだと言う。

昨日は、その前と変わって一日静かでよく眠ってくれた。

日によって波があるのだろう。

今日はまた少しハイだ。

昨日、今日と夫の言動に振り回されてすっかり参ってしまった。

朝、ケアマネから電話があり今日の訪問看護の時間について聞かれた時
思わず涙声で昨日からのいきさつを話してしまった。
心配したケアマネが、看護士の来る時間にきてくれるという。

看護士も話を聞いてくれ、私が参ってしまうといけないので主治医に電話を
してくれた。
話の内容から、入院を示唆されたが15日の診察を早めて１０日にしてくれた。

主治医の担当看護士から電話があり、部屋が空いていないので個室でも良いか
という。
一日１万円するそうだ。１３日には４人部屋が空くと言う。
夫のように、寝たきりの場合ナースステーションに近い部屋で無いといけないらしい。
とりあえずＯＫしたが、個室の場合夜は付添って泊まってほしいといわれた。

後で考えて、私の為に入院するなら断ろうと思う。
夜、病院に泊まるなら家で寝てたほうがいい。

夫が眠る為に処方してくれた薬が、反対にハイテンションになり、ずっと喋り捲って
いる。

明け方の３時ごろから、大声で何かを言っている。
無視して、眠った振りをしていたら、「おお～い」と誰かを呼んでいる。
それでも無視していたら、ご近所の名前を次から次へと呼ぶ。

同じ事を何度も何度も繰り返す。
「起きたい。」と起き上がろうとするが、座る事も出来ない。
「やっぱり無理か」と諦めるが、また１０分もしないうちに同じ事を言い出す。

私が背中を支えていれば座っていられるが、離せば後ろに倒れる。

昼間は何とか我慢できるが、夜中は辛い。

夫はいつも何処をさまよっているのだろう。

会社の事をよく言うが、定年してもう4年も経つのに未だに
現役のつもりでいる。

自分が何処にいるのか判らない。

「早く帰りたい」
「何処に？」
「Ｍ町の家」
「ココがＭ町だよ。3丁目」
「うそつけ。」
「じゃ、今何処にいるの」
「違うＭ町」
「・・・」

訳が判らない。

「あらそう」と聞き流せばいいのに、それが出来ない私の心は
とげとげしく、そのたびに自己嫌悪のかたまりだ。

水曜が過ぎると、瞬く間に週末がやってくる。

毎日何も出来ず、何処にも行けず、２日に１度の買い物が唯一の
息抜き？

それも１時間以内に帰らないと、機嫌が悪い。

仕方無いので張り紙をして出ることにした。

「○○に買い物に行く。１０：００～１１：３０」
一寸時間を多めに書いて行く。

張り紙をすれば納得しているようだ。

こんな調子で月日だけがどんどん過ぎていく。

夫に優しく出来ない私。

私を信用できない夫。

私達の４０年なんてこんなものだったんだ。
傍目にはいつでも何処でも一緒に出かけていたから仲の良い夫婦だと
思われているけど。

また2週間が過ぎた。

今回はレントゲンだけなので、10分位余裕を見ておけばいい。

介護タクシーが少し早めに来た。
夫をベッドからリクライニングの出来る車椅子に移すのに
少し時間が掛かるからだ。

病院に着いてタクシーは一旦帰ってもらう。
レントゲンを撮って、受付をすると直ぐに夫の受付番号表示が出た。

中待合に入ると直ぐに呼ばれた。
元気そうな夫に先生も安心したようだ。
「検査は一月に一度でいいですね。診察もそのくらいにしましょうか？」
といわれた。
夫は「いや、短いほうがいい」というので、また２週間後になった。
今度は、レントゲンも、血液も無い。

今の夫を連れて外に出るのは、けっこう大変なのだ。
安定しているのなら、月いちでもいいのだが。

夫の言うことがだんだんおかしくなって来た。

まともな時のほうが多いけれど、時としてとんでも無い言葉が
出てくる。

昨日も夕食が待てず、5分ごとに「まだか？」と催促する。
「5時半には、食べれるから待ってて？」と言っても、また5分もすると
「飯はまだか？」と言い出す。

いいかげん腹が立ってきて「そんなにしょっちゅう呼ばれてたら、その分
時間が遅くなるんだよ！」

えびとしいたけの卵とじに甘酢アンをかけたものを作って出したら
「カメの味がする物は食べたくない」
「昼の残りを温めたのか？」

「カメって何？人が一生懸命作ったのに、どうしてそういう言い方しか
できないの？」と涙が出てきた。

最近の夫は一時が万事この調子で、胸に刺さる。

軽く受け流してしまえば済む事だが、夫は「お前はオレを馬鹿にしているのか」
と思う人なのだ。

夫の下の世話や、着替えなどはなんとも思わないが、言葉には疲れる。

せめて一言「いつも世話をかけてすまんな」といってくれれば優しく
出来るのに・・・。

そんな言葉が出る時は、かえって危ないのかも。

期待するのは無駄だと、わかっているけど私の心はささくれ立っている。

紙を切ってから3ヶ月以上たってしまった。

少しうっとうしくなってきたので、美容院に行きたいと夫に言ってみる。

最近買い物に出かけるにも「1時間で帰ってくるから」と言って出かけても
帰ってくると「何処に行っていた。何時間かかるんだ」と怒られる。

毎回怒られるので、今日は紙に「美容院に行く。１３；４５～１５：００」
と紙に大きく書いて、夫のベッドから見えるところに貼った。

美容院の先生は、夫の病気の事を知っているので「ご主人大丈夫？」と気にして
くれた。
「3時までに帰ると言って来たので、大丈夫です」
「そう、じゃ時間までにしなくちゃね」

髪が硬くて太いので「少しすいてもいいかしら？段にすくと寝癖が付くから
内側だけね」
「自然に内巻きっぽくなればいいです。」

仕上がりはやっぱりワカメちゃん？

急いで家に帰る。
夫は眠っていた。やれやれ。

朝､晩はとても涼しくなってきた。

いつの間にか秋がやってきている。

季節は私の生活に関係なく訪れる。

赤い彼岸花が咲いているのを見つけた。
私はこの花が好きだ。

随分前に、庭に白い彼岸花（リコリス？）を植えた。
毎年この季節に花を咲かせる。

今年も沢山の蕾が顔を出してきた。
花が終わって葉っぱが出てくるのも不思議な花だ。

夫は日に日に、自分の世界に入ってゆく。

時々、私に問い掛けるが理解出来ない私は「？？」
夫は「もういい！」と怒る。

ほんとにどうしてこんなことになってしまったのだろう。

彼岸と言う事でおはぎを作る事にした。

あずきを煮て餡を作る。
いい感じに出来上がった。

もち米を炊いて、つぶし丸めて餡でくるむ。

餡が17個、黄な粉が3個出来た。

さて、こんなにどうしよう。

息子に「おはぎ、食べにきて」とメールを送る。

お向かいのおばさんにも持っていく。

夫にも「おはぎ食べる？」と出したら1個ぺろっと食べた。

今日はお味もグーだ。

息子達も食べにきてくれた。

6歳の孫が「これ、ばあばが作ったの？、おいしい」
と喜んでくれた。

私の母も子供の頃よく作ってくれた。
柏餅、おはぎ、伊が饅頭、など。

とても母には及ばないけれど、少しずつ近づければいいな。

今日もまた一日が過ぎてゆく。

印で押したような毎日だ。

朝、朝食が終わると歯を洗い、口をスポンジブラシで洗い、顔を熱いタオルで拭く。

掃除､洗濯、食器洗い、それらが終わって夫の下を洗い、二日に一度体を拭いて
着替える。

着替えも、オムツ替えも体力勝負だ。

買い物に行く日は午前中に済ませる。
今日も「買い物に行ってくるね。1時間位で帰るから」
といって出かけたのに、家に帰ると怒って待っている。
「何時まで掛かって買い物しとるだ」
そういわれると、ムカッとするのが私の悪いところ。
「ちゃんと言って行ったでしょ。一時間も掛かってないのに」
と言い訳してしまう。

もう買い物も思うように出来無いのか。
一時間では、ゆっくり見て廻る事も出来ない。
メモしたものをそそくさと買って帰るだけだ。
美容院にもいけない。

家にいれば夫が目を覚ましていると、絶えず呼ばれる。
ほとんど何も出来ず、やけになってゴロゴロして過ごす。

あ～あ、今日もまた終わってしまう。

夕食が終わり、夫が暫く眠りに入ると私の時間だ。

でも11時ごろには一度起きるので、そのときは夫には悪いけど
眠剤を飲んでもらう。

夜中に起こされるのだけは回避できる。

今日で退院後4週間過ぎた。

12時40分からの診察なのでその1時間前には病院に着かなくてはならない。
11時15分に介護タクシーを予約してあったが、少し遅れてきた。

今日はしっかり鍵を確認して、タクシーに乗った。

まずレントゲンを撮る。

続いて血液の検査を受ける。
今日はいつも休ませて貰う治療室のベッドで血液を取った。

病院にきたら売店でトロミを買おうと思っていたのに夫に「一寸売店に
行って来ていい？」と言うと、「行かんでいい。ココにいてくれ！」と
言われた。

他の薬局にもトロミは売っているが、病院の売店のトロミが私は好きなのに。

暫くして先生がベッドまで来てくれた。

ウンチのことを話して、チェックした表を見てもらう。
「うわぁ、コレはすごいですね。じゃお腹の薬出しておきましょう。」
ついでに睡眠薬もお願いした。

昼間はともかく、夜は眠って欲しい。

検査の結果は特に変わりなし。

また、二週間後の予約を貰った。
今度は血液の検査は無し。レントゲンだけ。

癌については、何の治療も無しだし、なんだか見放されていくようで
悲しい。

夫は自分の病気の事もよく判らなくなってきている。

今日病院に行った事も、明日になれば忘れているかも知れない。

今日ケアマネジャーが来てくれたので、いろいろグチを聞いてもらった。

私達は決して仲の良い夫婦ではないという事。
別れようと思った事も何度もあるという事。
夫の言動に辛い思いを沢山している事。

楽しい事も沢山有ったけど、辛い事もまた沢山有った。

今素直に心から夫に優しく出来ない自分がいる。

ケアマネが「私もこの仕事をしていろんな夫婦を見ているけど
ブタコさんのような人が多いよ。ほんとに仲の良い夫婦はほんの
少しだよ。」
「今さら逃げ出すわけにも行かないしね。」
「夫婦の生き方が人生の終盤になって、いろんな形で出てくるんだね」

全く夫が嫌いでもないから、今こうしているんだ。

でも辛かったことを思い出すと、一日中オムツ替えに明け暮れる自分に
理不尽さを感じて腹が立つ。

今、いちばん辛いのは夫だという事も判っている。
やりきれない苛立ちの毎日だ。

夫は退院してから、寝たきり状態なのでトイレにもいけない。

オムツをしているが、退院した頃はウンチが出なくて心配したが
最近は出すぎて困っている。

たくさん出るわけではないが、小指の先位のが日に30回位出る。
昼間は何とか耐えられるが夜はさすがに眠れない。
ひどい時は15分～20分間隔で、私を呼ぶ。

眠い目でオムツを開ければほんの少しついているだけ。
それが夫が起きている間続く。

さすがに切れて「一日オムツを替えてるみたいだ！」

手首も腱鞘炎で痛い。

夫は痩せたとはいえ、男だ。
私にとってオムツ替えはまるで格闘技だ。

何とかならないのかこのウンチ！

夫に腹を立て、夫に当たる自分に腹を立て、涙が出る。

夫が退院して3週間が過ぎた。

退院した頃はウンチが出なくて困ったが、10日ほど前からオムツを替えるたびに
少しずつでている。

夜昼関係ナシで、「おかぁさん～」と起こされる。
特に夜は2時過ぎた頃から、20分おきくらいに「おかぁさん」と起こされる。

その度にオムツを開いて見るが、ほんの少しずつでている。
汚れているからパットはその都度替えるし、昨夜などは起こされるたびにチェック
してみたら2時過ぎから、朝の6時位の間、20回近く起こされて、オムツを替えた。

私は寝つきが悪いから、起こされると中々眠れない。
結局、朝まで寝たかどうかわからないような状態だった。

起こす夫も眠ったかどうか判らないようだ。

こんな状態が毎日続いたら、私もおかしくなりそうだ。

夫にもイライラが募って思わず大声を上げてしまう。

後でそんな自分が嫌で、涙が出てくる。

今日はオムツを30回以上替えて（全てウンチ）替えたおむつの量も凄い量だ。

なんだか一日オムツを替えていたようなきがする。

夫の言う事が少ずつ変だ。

自分が今何処にいるのかわかっていない時がある。

「早く帰りたい」
「帰りたいって何処へ？」
「○○町」
「○○町って、今ココがそうだよ」
「そっか」

あるときは
「お前何時かえるだ」
「何時帰るって、何処へ？」
「○○町さやぁ」
「○○町って、今ココにいるのに、何処に帰るの？」

また有る時は
「ヘビと何かが喧嘩しとる。ちょっと見てくれ」
「見てくれって、何処に？」
「パンツの中」
「．．．．」

買い物に行く時も
「買い物に言ってくるからね。1時間位で帰るから」
といって出かけるが、帰ってくると家の外にいても「お～い、おかぁさん」
と呼ぶ声が聞こえる。

慌てて家に入ると「何処にいっとった」と怒る。
「買い物に行くって言ったじゃん」

言った事、聞いた事は直ぐ忘れるので前のように怒ることは少なくなった。
私がひどい事を言っても、以前なら「もうお前に面倒なんか見て貰わんでも
いい」と怒ったが、そういうこともあまり無くなった。

何にも出来ずに、ベッドで寝たきりになってしまった夫。
可哀想でならない。
それに付き添う私もまた、可哀想。

気持ちは落ち込むばかりだ。

今日は、退院後2週間目の診察日だ。

夫が留守のうちにベッドを替える事になっているので
息子の嫁に来て貰い、ベッドの変更と、マットをエアーマットに
替えるのを立ち合って貰う事にした。

11時にベッドの業者が来て、嫁も来てくれた。
11時15分に予約しておいた介護タクシーが来たので嫁に
後を頼んで病院に行く。

携帯を忘れた事に気が付いたが、まぁ公衆電話があるからいいか。

12時50分予約どうりに先生の診察を受け、特に変わりはないと
言われた。
今の夫には、変わらないといわれるのはいいことなのだ。

次回また2週間後の予約を貰い、介護タクシーに電話をして
迎に来て貰う。

家に着いて玄関の鍵を開けようとして焦った。
持っているのは車の鍵ではないか。

家の周りを見回しても鍵の開いているところはない。
嫁には、ベッドの入れ替えが終わった帰っていいと言ってあるので
当然いない。

電話をしようにも携帯も持っていない。
タクシーの人に電話を借りて嫁に持ってきて貰おうと思ったが
30分位掛かる。
次があるのでそれは無理だといわれた。

仕方ないので、自分の車に夫を乗せて、嫁の家まで行く事にした。
タクシーの人と二人掛りで何とか車に乗せる事ができた。

車椅子も料金は掛かったが、貸してもらえた。
「一人で大丈夫ですか？」
「何とかなるでしょう」

嫁の所に行き、鍵だけ借りて家に帰る。
車から降ろして、車椅子に乗せる事が出来れば何とかなる。

やってみたら何とかなった。
私って馬鹿力？

そのまま家のベッドに連れて行き、ベッドにも何とか寝かせる
事が出来た。

何とかなったじゃん。

それにしてココ最近ポカが多い。
どっかおかしいのかなぁ。

入院して、ほぼ寝たきりの状態になった夫が、明け方の3時過ぎに
なると決まって、「おしっこ」と私を起こす。

オムツをみて、パットが濡れていたら、それだけ替えるのだが
出ていない時のほうが多い。

「まだ出てないよ」
「そうか、それじゃしょうがないな」

また20分もすると「おかあさん、おしっこ」
と起こされる。

元々寝つきが悪いので、一度起こされると中々眠れない。

それが延々、朝方まで続く。

夫は昼間眠れるからいいが、私は孫達がいるので昼寝もできない。

「お願いだから、もっと出てからにして」と
言いたくなる。

あ〜、ゆっくり眠りたい。

21日に引越しをした娘が、此方の幼稚園に8月まで席のある孫の
夏期保育の為に、1週間ほど我が家で過ごす事になった。

金沢からだと高速を使っても4〜5時間は掛かる。
娘は一人で高速を長時間運転した事はないので、心配だ。

昨夜、心配だったら電車で来たら？とメールを送ったが
娘は一人で子供を二人連れてやってきた。

私の心配は取り越し苦労だったようだ。

なかなかやるじゃん。

これでいつでも一人で帰って来れるね。

私も、息子が岡山にいた頃、一人で高速を運転して出かけた
事があるが、とても疲れた。

まして、静かにしているはずもない子供を二人も乗せて、よく
頑張ったと思う。

また我が家も賑やかくなる。